夢の強制

本の紹介

橘玲:無理ゲー社会

不愉快になるかも、だが、読んでほしい本

こんにちはタニです。

今回は、橘玲著「無理ゲー社会」を紹介します。

一番知ってもらいたいのは、本書は攻略不可能な事実を突きつけるので、不愉快になる人が多いかもしれません、しかし、読んでほしいということです。

私たちが教え込まれてきた「頑張れば学力はいくらでも向上する」「努力すればどんな夢でも叶う」という神話のために「夢がないことがそんなにダメなのか」「どうしても頑張ることができない」と悩んでいませんか?

本書では、団塊世代の正規雇用を守るために、氷河期世代の非正規雇用を増大させた現実を直視しないために夢を持つことを強制することや、そもそも努力することができるかどうかも遺伝子の大きな影響を受けることなどが解説されています。

不愉快であっても読んでほしい理由は、自分がどのような世界に生きているのかを間違って理解している人は、自分や家族の人生について正しい判断をすることができないからです。

世の中には正しい地図を持たず、尺度や方位の違う地図を手に右往左往している人がものすごくたくさんいます。

そんな中で事実を知り、正しい地図を持っていることはとてつもなく有利なのです。

もっと意識的に知能を上げて現代社会の「きれいごと」を察知して、その考えをいち早く捨て去り、その裏に隠されている事実を見極める力を持つことが、自分や家族を守るために必要だと信じています。

著者の紹介、「無理ゲー社会」とは

橘玲先生は、お金や行動遺伝学に関する書籍を出されている作家です。著作は『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『言ってはいけないー残酷すぎる真実』などがあります。

今、人生ゲームの約束事が大きく変わって、攻略が極めて困難なゲーム「無理ゲー」となっています。

そして、多くの人が「無理ゲー」の結果は受け入れるとしても、その競争をさせられるのは理不尽だと声を上げ始めているのです。

わかりやすくいうと、拒否権がなく、強制的にテニスで錦織圭と、将棋で藤井聡太と勝負させられるようなものです。

当然、100回やって100回とも負けます。

実力が違うのでその結果を不公平とは思わないでしょう、しかし、意思に反してそのようなゲームを強いられた事はとてつもなく理不尽だと感じるに違いありません。

日本では、人類史上、未曾有の長寿と健康を実現した結果、私たちは「高齢者に押しつぶされてしまう」という途方も無く大きな不安を抱えています。

さらに世界では、ダボス会議で知られる2021年世界経済フォーラムで、グレートリセットにより、マネーが支配する資本主義を脱却し、才能が支配する才能主義へ変わっていくのだと語られています。

マイケル・サンデル『実力も運のうち、能力主義は正義か?』や児童精神科医宮口幸治『どうしても頑張れない人たち』などで知能、やる気、集中力などの遺伝的影響が大きいことが明らかにされつつあります。

才能主義の世界で、遺伝子の宝クジ「遺伝ガチャ」に外れた才能のない者は、どうやって生きていけばよいのでしょうか。

「夢を持つことの強制」は「大人の都合」

2021年2月25日、日本経済新聞の見開き全面広告で「ウソつきをヒーローにしよう」という「April Dream」なるプロジェクトが告知された。エイプリル・フールの「ウソ」をやめて、4月1日はみんなが「夢」を発信するヒーローになり、小さな希望をつくってみるのだという。「日本で一番ウソつきが多い日を、日本で一番夢を語るヒーローが多い日にできたら、明日が、そう、未来がもっと叶えたいことでいっぱいになれる」のだそうだ。

橘玲|無理ゲー社会

4月1日をエイプリル・フールからエイプリル・ドリームにするという告知の引用です。

胃の奥にムカムカと不快感を感じませんか?

「夢を持つことは素晴らしいという正しさ」を押し付けられていると感じますね。

本書では、「夢を持つことを強制されている」「小学校のときに夢を具体的に決めるように強制されて以来、将来の夢という言葉が嫌い」「夢が無いことがそんなにダメなのか」「夢に囚われずに生きたい」という本音が紹介されています。

この本音を知ることができただけで、救われる気持ちになりますね。

そして、さらに本書では、社会が「夢を持たせよう」とするのは、フリーターやニートの増加などの解決困難な問題を「自己責任」にしたい「大人の都合」だというのです。

日本の最大の政治的課題は、団塊世代で男性の利益を守ることです。

橘玲先生「上級国民/下級国民」によれば、平成の30年間は団塊世代で正社員男性の雇用を守るために、正規雇用を抑制して、非正規雇用をフリーターやニートの増加させる政策が実施されました。そして、令和は、年金受給者となった団塊世代の男性の年金を守るために、働き方改革が推し進められているのです。

日本社会において団塊世代批判は最大のタブーですので、このような現実を直視せずにこの理不尽な事態を説明するには何か別な犯人が必要です。

その別な犯人が「夢を実現するためには頑張らなければならない」という夢至上主義と「夢がかなわないのは、本人の努力不足」という「自己責任」なのです。

鬼滅の刃でいえば、下弦の壱・魘夢(えんむ)のようなものです。

魘夢(えんむ)の術であれば「夢を見ながら死ねるなんて、幸せだよね。」と、夢見心地で一生を終えるので、考え方によっては幸せかもしれませんが。

先程引用した日本経済新聞の見開き全面広告が、魘夢(えんむ)の声で聞こえてしまいます。

頑張れるかどうかも遺伝ガチャ

クラウス・シュワブは、世界中からリーダーたちを集める「ダボス会議」で知られる世界経済フォーラム(WEF)の創設者だ。シュワブは日本の新聞社のインタビューに答え、コロナ禍を体験した2021年のテーマは「(世界の社会経済システムを考え直す)「グレート・リセット」になるとしてこう語った。

(リセット後は)資本主義という表現はもはや適切ではない。金融緩和でマネーがあふれ、資本の意味を薄れた。もはや成功を導くのはイノベーションを起こす起業家精神や才能で、むしろ「才能主義(Talentism)」と呼びたい。

橘玲|無理ゲー社会

才能主義の到来を避けることはできないと感じさせますね。

才能主義の才能とは、プロのスポーツ選手や音楽家などを除いて、ほぼ知能や学力と同義です。

そして、私たちは、暗黙のうちに今の社会が知能学力によって序列化されていることを受け入れています。それは、成功に重要なのは知能よりも自己コントロール力で、教育で遺伝的知能を伸ばすことができないとしても努力でやる気や堅実性パーソナリティーを高めることができるを考えているからです。

学歴・資格・経験は本人の努力によっていくらでも向上できるのだから、入学試験の業績が悪いのは本人が努力しなかったから、一流企業に入社できないのは学歴が低いからで、これも頑張らないことを選んだ本人の自由な選択の結果だとされているのです。

しかし、行動遺伝学は、知能だけではなく努力にも遺伝の影響があることを明らかにしています。

方法を簡単に説明すると、遺伝子が同じ双生児で、片方が養子に出された双生児を比較することで、遺伝や環境の影響がわかるという研究です。

総計1455万8903人の双生児を対象とした1958年から2012年までの2748件の研究を分析しているので、正しいと認めるかどうかは別として科学的根拠は十分でしょう。

研究が示すのは、頑張ることに影響する「やる気」「集中力」の遺伝率は、やる気が57%、集中力は44%であるという事実です。

努力できるかどうかのおよそ半分は遺伝的であることがわかります。

児童精神学院の宮口幸治先生はベストセラーとなった『ケーキを切れない非行少年たち』の続編である『どうしても頑張れない人たち』で「頑張る人を応援する」と言う善意の残酷さについて書いています。宮口先生が医療少年院などで出会う少年たちは頑張りたいと思っているかもしれませんが、それでも頑張れないのです。

その原因の全てが遺伝的なものだとはいえませんが、幼児期の虐待や育児放棄など、本人の意思ではどうしようもないものがほとんどです。

才能主義の無理ゲー社会では、意思力のような「成功に役立つ性格」を過大評価します。これは逆にいうと「頑張れない(努力しない)ひと」は助けられる資格がないということです。

ドラえもんで言えば、頑張れないこと理由にのび太の人間性(性格)を否定することです。

ドラえもんの世界では、のび太が「成功に役立つ性格」を持っていないことはキャラ(個性)として受け入れられています。

しかし、私たちが生きている世界では、本人が選ぶことができない遺伝ガチャに外れ、選択できない環境のために、どうしても頑張ることができないことを理由に、その人間性を否定されている人が大勢いるのです。

最後に

  • 夢を持つことを強制するのは、社会の理不尽さを自己責任にするため
  • 頑張れるかどうかも遺伝ガチャの影響が大きい

これらは、1人では攻略不可能な問題で、すべての人が満足する解決策はありません。

しかし、仮に、ゆっくりのんびり生きたいと願っているのであれば、その感情は自然な人類のデザインであると受け入れてみるのはどうでしょうか。

行動遺伝学によれば、生命誕生以来の長い進化の歴史は、ヒトの身体だけではなく、心もデザインしてきました。

つまり、ゆっくりのんびり生きたいを思うことは、遺伝子のプログラムの結果です。

たまたま、遺伝子のプログラムと現代の価値観が合っていないだけのことです。

激しく変化する無理ゲー社会の価値観に合わせる努力をするよりも、人類の進化の結果である自分の心と身体の声に従って生きることが解決になるのではないでしょうか。

あらゆる人に適した解決策はありませんので、本書を紹介したこのブログで、不愉快にさせてしまった方もいるかもしれません。

不愉快になった方にお詫びします。

しかし、心理学者が明らかにした有用なアドバイスの原則はとてもシンプルです。

ひとは、自分と似ているひとからの助言がもっとも役に立つ。

このブログが「私に似た」あなたの人生になんらかの役に立てば幸いです。

最後まで、ありがとうございました。

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